【対談】臼井一裕医師(NTT東日本関東病院 呼吸器内科 部長)

本対談は、当院院長の竹島と、院長がかつて研鑽を積んだNTT東日本関東病院の呼吸器内科部長・臼井一裕医師によるものです。
クリニックが担うべき専門医療のあり方や、デジタルツールを活用した利便性の向上、そして基幹病院とクリニックがどのように役割を分担し、患者さんを支えていくべきか。
地域医療の現場を知るお二人に、現実的な課題とこれからの展望を語っていただきました。

専門性と利便性を両立する地域クリニックの役割

竹島医師

当院は、地域の皆さんの健やかな生活を支援することを大きな目標に掲げています。
呼吸器の専門医療と通いやすい内科診療を、誰もが気軽に受けられる場所にしたいと考えています。

そのために、AIによる画像診断補助や呼気NO検査(ぜんそくの炎症を測る検査)など、最新の技術やNTT東日本関東病院で学んだ知識を活用し、質の高い医療を提供します。
同時に、通院の負担となる長い待ち時間を解消するため、24時間Web予約や事前のWeb問診、クレジットカードによる自動決済などのDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に取り入れています。

また、クリニックの設計にもこだわりました。感染症やプライバシーへの不安を解消するため、一般的な待合室ではなく、最初から個室でお待ちいただき、そこに医師が訪問するスタイルを採用しています。
こうした工夫を通じて、患者さんが安心して通い続けられるクリニックを目指していこうと考えています。

臼井医師

素晴らしいですね。個室で待機してもらうというのは、アメリカの外来診療に近い形で、日本では非常に珍しい取り組みだと思います。
非常に良いと思いますし、羨ましい部分もありますね。
先生は当院に在籍していた時から、病院全体のWeb問診導入など、デジタル化に大きく貢献してくれました。
当院でもWeb問診が始まりましたが、先生のところで活用されている便利な仕組みがあれば、今後は逆にこちらが教えていただきたいくらいです。

また、大田区は昔ながらの工場も多く、地域柄として呼吸器疾患で悩まれる方が多い印象があります。
「肺は環境の鏡」とも言いますが、最初の診断を下すクリニックの役割は重要です。
先生のような専門医が地域にいてくださるのは、私たちにとっても非常に心強いです。

基幹病院の強みと、地域での「顔が見える」連携の価値

竹島医師

ありがとうございます。
連携という観点で、あらためてNTT東日本関東病院ならではの強みについて教えていただけますでしょうか。

臼井医師

地域の基幹病院として、当院では大きく「がん」「急性期疾患」「予防」の3つに注力しています。
また国際診療にも力を入れており、外国籍の患者さんも含め、幅広く多様な症例を診ているのが特徴です。

先生が今後注力される「喘息」は、実は当院に通院されている患者さんの中で最も多い疾患グループです。
しかし、病状が安定している方であれば、地域でこまめに診てもらったほうが、通院の負担も少なく満足度も高いはずです。
調子が悪い時にすぐ相談できる「かかりつけ医」の存在は非常に重要です。

呼吸器専門医は他の内科に比べて人数が少ないのが実情で、これまでは「顔が見える形」でのスムーズな紹介が難しい面もありました。
ですので、専門医である竹島先生が地域で開業されることは、私たちにとっても心強い。
安定している方はもちろん、少し手厚い治療が必要な方も含めてぜひ診療をお願いしたいですし、逆に入院や高度医療が必要な際には、いつでも当院へご紹介いただければと思います。

進化した喘息治療と、患者さんに寄り添う継続支援

竹島医師

喘息治療の選択肢は、ここ数年で本当に広がりました。
吸入薬や内服薬を組み合わせても症状が安定せず、発作(増悪)を繰り返す患者さんに対し、「抗体製剤」という新しい注射薬を使うことで劇的に改善するケースを、私もこちら(NTT東日本関東病院)で多く経験しました。
初めての注射治療に戸惑われる方もいらっしゃいますが、安定した後のベネフィットは非常に大きいと感じています。

臼井医師

竹島先生が当院に来る前は、正直なところ「吸入薬で様子を見て、悪くなればステロイド剤でその場をしのぐ」という治療が主流で、それが限界だと思っていた節もありました。
そこに竹島先生が来て、新しい治療へ積極的にトライしてくれました。特に、従来は通院して行っていた注射を、看護師や薬剤師と協力して「自己注射(患者さん自身が自宅で行う)」へと切り替えていく流れを作ってくれたことは、患者さんの通院負担を減らす大きな成果でした。これはぜひクリニックでも続けてほしいですね。

また、吸入薬のデバイス選びや指導についても、患者さんに合わせて適切に調整してくれました。
質問票を用いて患者さんの訴えを数値化・客観化するシステムを導入してくれたことで、診療の成果を正しく評価できるようになったことも大きな進歩です。

竹島医師

治療を始めると、最初は効果を実感しても、しばらくすると「なぜ続けなければいけないのか」と中断してしまう方が一定数いらっしゃいます。
しかし、吸入をやめたり再開したりを繰り返すと、肺の構造が変化して薬が効きにくくなる「リモデリング」や、発作の頻発を招く恐れがあります。

これを防ぐには、治療を続けることで「質の高い生活」を維持できるのだと、患者さんに実感していただくことが不可欠です。
安定度をスコア化して客観的に示したり、日々の丁寧な声かけでモチベーションを高めたりすることは、より患者さんに近い距離にいる地域クリニックが得意とする役割だと感じています。

医療の質を「患者さんの満足度」で評価する時代

竹島医師

私は個別の治療はもちろん、看護師や薬剤師を含めた医療システム全体の効率化にも関心を持って取り組んできました。
ただ、大病院という大きな組織では、新しい仕組みをスピーディーに動かすのが難しい面もあります。改善に向けた工夫や、今注目されている課題などはありますか。

臼井医師

私は、まずは少人数でも「失敗を恐れず始めてみる」ことが一番だと考えています。
大きな組織では反対意見も出やすいですが、トライアンドエラーを繰り返して次につなげていくしかありません。
これからの医療において非常に重要になるのが、単に「治ったか」「長生きしたか」という実績だけでなく、Patient Reported Outcome、つまり「患者さんがどれくらい満足し、生活の質が改善したか」という視点です。

これまでは口コミなどの主観に頼っていた部分もありますが、これからは病状に応じた患者さんの声を、DXを活用して負担なくリアルタイムに吸い上げ、それを診療の指標にするスタイルが必須になっていくと感じています。

実際、当院の「ひかりワンチーム」という連携ツールでも、リアルタイムに情報が共有されることで、医師側の準備もストレスなくスムーズに行えるようになりました。
「連絡が頻繁になりすぎるのでは」という懸念もありましたが、実際には適切な距離感で情報共有ができています。
患者さんと医療者が、よりダイレクトにつながる方向性は非常に良いことだと感じています。

診療科の垣根を越えた「チーム力」と、迅速な意思決定

竹島医師

先ほどの「ひかりワンチーム」のお話のように、訪問診療の先生が抱く「受診させるほどではないが少し不安」といった相談に、基幹病院がリアルタイムで応えられる体制は非常に合理的です。
病院側も事前に準備をした上で迎えられるため、患者さんをお待たせせず、スムーズに最適な治療を提供できる。
これはNTT東日本関東病院、特に呼吸器内科の大きな強みだと感じます。その他には、どのような強みがあるとお考えでしょうか。

臼井医師

私たちは各分野の専門医を揃えていますが、最大の特徴は「どのスタッフであっても、周囲に相談しながら標準治療、あるいはそれ以上の医療を安定して提供できる体制」にあると考えています。

また、診療科間の壁が非常に低いことも大きな要因です。
たとえば、呼吸器内科と呼吸器外科が完全に分かれている病院も多いですが、当院では責任体制こそ明確に分かれているものの、実態としては一つのチームに近い状況です。
看護ケアについても、早期から専門スタッフと一緒に進めるなど、多職種が連携しやすい環境が整っています。

竹島医師

呼吸器内科と呼吸器外科はスタッフルームが一緒ですよね。
私が在籍していた時も、パソコンで画像を見ながら、隣の席の外科の先生にトントンと声をかけてすぐに相談できる環境でした。
がん治療においても、診断から治療、そして必要に応じた緩和ケア病棟への連携まで、院内で非常にシームレスに進みます。がん治療はNTT病院で完結すると言ってもいいのかなというところですよね。

臼井医師

もちろん「がん」だけでなく、肺炎や間質性肺炎(原稿の「感謝炎」を文脈より修正)、慢性の感染症など、呼吸器疾患全般を積極的に診ています。
地域の基幹病院として、一通りどのような疾患でもお任せいただける体制を整えています。

長引く咳に隠れたサインを見逃さないために

質問者

喘息は子どもの病気というイメージがありますが、大人はどのようなタイミング、どのような症状で診察を受ければよいのでしょうか。
病院とクリニックの役割分担についても教えてください。

竹島医師

最初の受診タイミングは、やはり「長引く咳」です。息苦しさが出てからでは重症に近いこともあるので、その前段階で「普通の風邪ではないかも」という認識を持っていただき、呼吸器を詳しく検査できるクリニックを受診していただくのが良いと思います。
そこで専門的な検査を行い、適切な治療を導入します。吸入の方法や治療選択には差が出やすいので、専門医としての説明や提案を行い、安心して治療を進めてもらうことが大切です。
「咳くらい」と我慢すると、難治性喘息へ移行したり苦しくなったりすることに繋がるため、長引く咳の段階で受診してください。

臼井医師

一応、3週間以上続く咳が目安ですね。2〜3週間でも要注意です。

質問者

先日ニュースで報道されていた「百日咳」というのもありますが、そちらはいかがでしょうか。

臼井医師

あれは喘息ではありません!
咳の原因はさまざまで、喘息以外の病気もあれば、逆に喘息なのに他の病気と誤解されてしまうこともあります。
ですから、最初の段階できちんと呼吸器専門の医師に振り分け・診断してもらうことが大事です。

1回でパシッと診断がつくこともありますが、何回か通う中で最終的に診断がつくこともあります。
最初に行ってうまくいかないからといってクリニックを転々とせず、信頼できるクリニックで継続してコミュニケーションを取り、適切な診断と治療を受けてください。

竹島医師

咳の裏には本当にいろいろな病気が隠れています。
だからこそ、最初にしっかりと検査を使いながら見極めるのが大切だと考えています。

臼井医師

専門的検査を行うことで、一発で原因が分かる場合もあります。
逆に検査がないと診断に時間がかかり、その間ずっと患者さんの悩みは続いてしまいます。
クリニックで病院並みの検査を設置・用意しているのは、とても良いことだと思います。

竹島医師

百日咳は診断が難しいのが課題で、通常の採血(抗体)検査では結果が出るまでに日数がかかります。
そこで当院では、百日咳を含めた複数の感染症を網羅的に一度に検査できるキットを導入しました。
15分ほどで結果が出るため、その場で結果に応じた早い対応が可能です。

臼井医師

もう1つ大事なのは、国も「まずは地域クリニックへ」という流れを指導している点です。
ただ、呼吸器が得意な先生かどうかで最初の重症度の見極めは難しいため、クリニックの先生の勧めに応じて大病院へ来てもらえればよいと思います。

逆に、最初から基幹病院に来られる方もいらっしゃいますが、その場合は病状が安定したら地域へ逆紹介します。
国の指定はありますが、あまり頭を固くせず、困っていればまず医療機関へ、でよいと思います。患者さん自身がどこへ行くか決めるのは難しいので、今後の広報などで雰囲気が変わっていけばいいですね。

しかし、どのクリニックを信頼すればよいかの判断は難しいですよね。
私と先生のように、実際に一緒に仕事をして関係があると「この先生は信頼できるから行ったほうがいい」と具体的にお伝えできます。
情報は世の中に多いですが、やはり最後は「人と人」。実際に受診してもらってお勧めできるような関係性が大切だと思います。

当院の呼吸器内科について

  • 呼吸器科の専門医
    兼 指導医在中

  • 完全予約制
    待合室から個室にて対応

  • 土曜日も
    17時まで診療

※ 日本呼吸器学会 呼吸器専門医・指導医 竹島 英之

完全個室で、受付後すぐに個室へご案内します。待合から診察まで個室のため、待合で咳を気にしながら順番を待つ必要がありません。
診察・治療まですべてそのお部屋で完結。院内すべてがバリアフリー対応。呼吸器の病気の予防や禁煙のサポートにも力を入れています。

呼吸器の専門医が常駐しており、咳や喘息、肺炎、COPDなど、呼吸に関する症状を専門的な視点から正確に診断いたします。